くも膜下出血と脳ドック
脳卒中のなかでもくも膜下出血は、特に働き盛りの年齢層を襲う最もこわい病気の一つであり、心筋梗塞と共に、突然死の原因として有名です。今回は、くも膜下出血と脳ドックについてお話します。
【くも膜下出血】
くも膜下出血の症状は、突然の頭痛です。後頭部痛が一般的ですが、目の奥やこめかみのこともあります。重症では意識を失いますが、軽症では風邪ぐらいの頭痛と間違われます。過去に経験のない突然の頭痛では要注意です。
くも膜下出血の原因は、脳動脈瘤の破裂です。脳動脈瘤は脳の動脈の先天的に弱い所に発生し、ちょうどおもちを焼いてふくらむように増大して、最後は破裂します。破裂するまでは無症状ですから前兆はありません。高血圧でない人にもできます。出血が一時的に止まれば頭痛だけですが、止まらなければ、意識を失い呼吸も停止し死亡します。早期に入院し専門的治療が必要です。
くも膜下出血と診断されれば、再破裂の危険性が高いので緊急的に脳血管撮影をおこなって、出血源である脳動脈瘤の位置や大きさを検索します。内科的には、再破裂を完全には予防できないので手術が必要です。手術は、全身麻酔のもとで開頭し、手術用顕微鏡を用いたマイクロサージェリーにて動脈瘤を剥離しクリップをかけます。また、最近では、血管内手術が進歩し、極細カテーテルを動脈瘤内まですすめ、動脈瘤を内側から柔らかい金属製コイルで閉塞する方法もあります。局所麻酔で開頭もしないので今後広まっていく治療法です。しかし、手術が成功しても、最初の出血により脳細胞が障害されたうえに、出血後2週間は脳の血管が全体的に縮み血行障害がかさなるので、元通りに回復するとは限りません。
1970年頃からの顕微鏡手術の進歩、80年代のCT、90年代のMRI装置の開発、最近の血管内手術の進歩により脳神経外科の治療成績は著しく向上しました。しかし、最新の医療をもってしても、いったん動脈瘤が破裂してしまった後のくも膜下出血の治療成績は、今でも、死亡率が30〜40%です。助かっても、後遺症が残ることもあり、もとの生活に戻れる人が約半数以下です。
朝いつものように元気よく出勤した働き盛りの夫が仕事場で倒れ、あわてて駆けつけた妻と子に、脳死状態に近いため手術もできず病状の説明しかできないときに、「破裂する前に、動脈瘤が見つかっていれば・・・」と願ったものです。そして、現在、脳ドックができるようになったのです。
【脳ドック】
脳ドックとは、脳卒中の予防、脳腫瘍の早期発見、痴呆の予防などをめざした脳の健康診断です。とくに、くも膜下出血の原因となる未破裂動脈瘤の早期発見です。磁場を用いたMRI検査であり造影剤も使用しないので痛みも副作用もありません。2〜3ミリ以上の動脈瘤なら発見可能です。健康な人100人に約1〜2人に動脈瘤が見つかります。発見率は親子、兄弟姉妹にくも膜下出血の既往があれば一般より2〜4倍高いといわれています。動脈瘤が発見されたら破裂する恐れがありますが、いつ破裂するのか、重症になるのかどうかはだれにもわかりません。一般的に年間破裂率が約1%といわれ、40歳で発見されれば、50歳までに約10%、60歳までに約20%破裂する可能性が予測されます。未破裂動脈瘤の手術は、脳の損傷がないので成功すればなんら後遺症はでませんが、動脈瘤の位置や大きさなどにより手術の危険性が高いこともあります。未病の、無症状の時期に、将来安心して生きるために受ける手術ですから、十分に理解し、本人、家族と医療者側との納得いくまでの話し合いと信頼の上で治療方針を決定しています。
人間は病気を内在して生をうけています。今できることを、すこしでも軽いうちに手当して、安心して暮らしていただきたいと思います。